Team:KIT-Kyoto/Project/AbstractJ

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=== 大腸菌の生存曲線について ===
=== 大腸菌の生存曲線について ===
<背景>
<背景>
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:''E.coli''-Pen製作にあたって、''E.coli''-PenのインクにH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>反応系の大腸菌(DH5α)を用いることとなった。
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:''E.coli''-Pen製作にあたって、''E.coli''-PenのインクにH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>反応系の大腸菌(DH5α)を用いました。
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しかし、高濃度のH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>は大腸菌に対して濃度依存的毒性を示すことが知られている。
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しかし、高濃度のH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>は大腸菌に対して濃度依存的毒性を示すことが知られています。
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そこで、効率的にH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>反応系を利用するために、大腸菌(DH5α)の生存曲線を調べ、大腸菌(DH5α)が死滅しない程度のH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>濃度を求めることにした。
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そこで、効率的にH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>反応系を利用するために、大腸菌(DH5α)の生存曲線を調べ、大腸菌(DH5α)が死滅しない程度のH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>濃度を求めることにしました。
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:1日目
:1日目
::・DH5αの培養
::・DH5αの培養
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:: プレートからシングルコロニーを滅菌した爪楊枝でピックアップした。
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:: プレートからシングルコロニーを滅菌した爪楊枝でピックアップしました。
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:: ↓爪楊枝でピックアップしたコロニーをテストチューブに入れた2mlのLB(amp-)液体培地に移し、37℃で振盪培養した(overnight)。
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:: ↓爪楊枝でピックアップしたコロニーをテストチューブに入れた2mlのLB(amp-)液体培地に移し、37℃で振盪培養しました(overnight)。
:2日目
:2日目
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::前日にプレカルチャーした培養液2mlにLB液体培地 28mlを加えて希釈し、吸光度を計った。
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::前日にプレカルチャーした培養液2mlにLB液体培地 28mlを加えて希釈し、吸光度を計りました。
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::↓DH5αをO.D.600=0.4~0.6になるまで37℃で振盪培養した。
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::↓DH5αをO.D.600=0.4~0.6になるまで37℃で振盪培養しました。
::↓培養後、培養液を2mlずつ分注し、終濃度が1mM,100μM,10μM,1μM,100nM,10nM,1nM, 
::↓培養後、培養液を2mlずつ分注し、終濃度が1mM,100μM,10μM,1μM,100nM,10nM,1nM, 
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::100pM,10pM,1pMになるようにH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>を加え、37℃で振盪培養した(1時間)。
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::100pM,10pM,1pMになるようにH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>を加え、37℃で振盪培養しました(1時間)。
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::↓1時間後、培養液1μlに対してLB液体培地を1ml加えて希釈し、希釈した培養液10μlをLBプレート(amp-)にまき、37℃で培養した(overnight)。
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::↓1時間後、培養液1μlに対してLB液体培地を1ml加えて希釈し、希釈した培養液10μlをLBプレート(amp-)にまき、37℃で培養しました(overnight)。
:3日目
:3日目
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::プレートのコロニーの数を数え、生存曲線のグラフを作成した。
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::プレートのコロニーの数を数え、生存曲線のグラフを作成しました。
<実験結果>
<実験結果>
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:実験結果を以下に示す。
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:実験結果を以下に示します。
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:得られたグラフより、大腸菌のH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>による致死濃度は1mMである事がわかった。一方、H<sub>2</sub>O<sub>2</sub>濃度が0.000001mM(=1nM)以下だと大腸菌の生存に影響を与えないことがわかった。以上の結果からH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>濃度が1nM~1mMの範囲を基準として使用し、次にH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>応答プロモーターの活性度合を調べることにした。
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:得られたグラフより、大腸菌のH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>による致死濃度は1mMである事がわかりました。一方、H<sub>2</sub>O<sub>2</sub>濃度が0.000001mM(=1nM)以下だと大腸菌の生存に影響を与えないことがわかりました。以上の結果からH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>濃度が1nM~1mMの範囲を基準として使用し、次にH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>応答プロモーターの活性度合を調べることにしました。
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:また、この実験結果は実験を5回行って、その統計をもとにしているので実証性が十分にあるといえる。
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:また、この実験結果は実験を5回行って、その統計をもとにしているので実証性が十分にあるといえます。
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:以下の引用文献を参考に、得られた結果は正しいと判断した。
:以下の引用文献を参考に、得られた結果は正しいと判断した。
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:図17Bは、大腸菌XL1-ブルーおよびO112a,c血清型の生存能力に対するH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>の濃度依存的毒性を示す。
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:図17Bは、大腸菌XL1-ブルーおよび0112a,c血清型の生存能力に対するH<sub>2</sub>O<sub>2</sub>の濃度依存的毒性を示す。
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<結果と考察>
<結果と考察>
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:ahpCプロモーター;ahpC-Fは酸化ストレス防御に関連する遺伝子である。これらの遺伝子の転写は過酸化水素応答によって制御されており、ahpCとahpFはアルキルヒドロペルオキシド還元酵素の小サブユニットと大サブユニットを、それぞれコードしている。そしてAhpCとAhpFは複合体を形成することで、アルキルヒドロペルオキシドを還元する。 ahpCプロモーターは酸化ストレス応答転写因子の1つであるOxyRによって支配されている。OxyRは恒性的に発現されるが、過酸化水素による酸化ストレス条件下において、初めて活性化される。また活性型OxyRはahpCのプロモーター領域に結合し、転写を促進する。
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:ahpCプロモーター;ahpC-Fは酸化ストレス防御に関連する遺伝子です。これらの遺伝子の転写は過酸化水素応答によって制御されており、ahpCとahpFはアルキルヒドロペルオキシド還元酵素の小サブユニットと大サブユニットを、それぞれコードしています。そしてAhpCとAhpFは複合体を形成することで、アルキルヒドロペルオキシドを還元します。 ahpCプロモーターは酸化ストレス応答転写因子の1つであるOxyRによって支配されています。OxyRは恒性的に発現されるが、過酸化水素による酸化ストレス条件下において、初めて活性化されています。また活性型OxyRはahpCのプロモーター領域に結合し、転写を促進します。
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: 我々は、ahpCプロモーターによる蛍光タンパク質発現系を設計し、この発現系ベクターをDH5αコンピテントセルに形質転換した。そして我々は、以下に示すように、過酸化水素を付加した細胞の蛍光強度測定を行った。
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:私たちは、ahpCプロモーターによる蛍光タンパク質発現系を設計し、この発現系ベクターをDH5αコンピテントセルに形質転換しました。そして、以下に示すように、過酸化水素を付加した細胞の蛍光強度測定を行いました。
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: 37℃下において、細胞を1nM~1mMの過酸化水素で処理し、10分毎に80分までの蛍光強度を測定した。LB培地は自家蛍光がある為、対数増殖期にある大腸菌をOD600=0.5に保ち、PBSに懸濁した。
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: 37℃下において、細胞を1nM~1mMの過酸化水素で処理し、10分毎に80分までの蛍光強度を測定しました。LB培地は自家蛍光が生じるため、対数増殖期にある大腸菌をOD600=0.5に保ち、PBSに懸濁しました。
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: Figure 1 はahpCプロモーターが過酸化水素に対して濃度依存的に応答し、また経時的にその活性が増大していることを示している。特に過酸化水素濃度10μM~1mM、処理後40分から70分において蛍光強度は著しく増大した。また、処理後70分以降、蛍光強度の増大傾向は見られなくなった。
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: Figure 1 はahpCプロモーターが過酸化水素に対して濃度依存的に応答し、また経時的にその活性が増大していることを示しています。特に過酸化水素濃度10μM~1mM、処理後40分から70分において蛍光強度は著しく増大しました。また、処理後70分以降、蛍光強度の増大傾向は見られなくなりました。
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: 今回、我々が得た結果は極めて理想的で、過酸化水素による濃度的、時間的な蛍光タンパク質の発現調節が可能であることを示唆している。従って、我々はこの発現系により、極めて多くの色をつくり得ると考える。我々の発現システムは''E.coli'' Penの開発にとって、間違いなく強力なツールとなる。
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: 今回、我々が得た結果は極めて理想的で、過酸化水素による濃度的、時間的な蛍光タンパク質の発現調節が可能であることを示唆しています。従って、我々はこの発現系により、極めて多くの色をつくり得ると考えられます。我々の発現システムは''E.coli'' Penの開発にとって、間違いなく強力なツールとなります。
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<結果>
<結果>
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: sufAプロモーター;sufAプロモーターはOxyRを含めた幾つかの転写因子によって支配されており、それらの転写因子は大腸菌においてFe-S cluster assemblyシステムをコードするsufABCDSEオペロンの転写を制御している。我々はsufAプロモーターに関しても、蛍光タンパク質発現系を設計し、蛍光強度の測定を行った。
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: sufAプロモーター;sufAプロモーターはOxyRを含めた幾つかの転写因子によって支配されており、それらの転写因子は大腸菌においてFe-S cluster assemblyシステムをコードするsufABCDSEオペロンの転写を制御しています。私たちはsufAプロモーターに関しても、蛍光タンパク質発現系を設計し、蛍光強度の測定を行いました。
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: Figure 2 はsufAプロモーターが過酸化水素に対して濃度依存的に応答していることを示している。
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: Figure 2 はsufAプロモーターが過酸化水素に対して濃度依存的に応答していることを示しています。
<考察>
<考察>
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: sufAプロモーター領域はsufAオペロンの上流に位置し、SufAタンパク質は足場タンパク質として機能している。SufAタンパク質は極めて短時間で発現量の最大値に達し、sufAプロモーターは少なくとも処理後、80分まではその活性を増大、維持した。また我々は、sufAプロモーターの濃度依存的な活性はSufAタンパク質の発現量にも反映されるものと推測する。
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: sufAプロモーター領域はsufAオペロンの上流に位置し、SufAタンパク質は足場タンパク質として機能しています。SufAタンパク質は極めて短時間で発現量の最大値に達し、sufAプロモーターは少なくとも処理後、80分まではその活性を増大、維持しました。また我々は、sufAプロモーターの濃度依存的な活性はSufAタンパク質の発現量にも反映されるものと推測しています。
== Materials & Methods ==
== Materials & Methods ==

Revision as of 06:05, 23 October 2010



Language : English / Japanese

Abstract

"E.coli Pen": Draw with your own color.

私たちKIT-Kyotoは、新たなArt Toolとして「E.coli Pen」を提案しました。このE.coli Penは大腸菌の菌液をインクとする全く新しいペンです。同じ一種類のインクで複数の色を創り出すことを最大の特徴とし、そのメカニズムは酸化ストレス応答機構を利用しています。私たちは、酸化ストレスを与えると蛍光タンパク質を発現する大腸菌を新たに作製しました。さらに、酸化ストレスへの応答が異なる様々なプロモーターを使って、それぞれの下流域にある蛍光タンパク質の遺伝子発現の調節をおこうことで、1種類の大腸菌に無限の色を作らせることに挑戦しました。私たちが作製したこのインクを用いた“E.coli Pen”を使えば、これまでのiGEMにおけるBioartとは一味違う、「一般の人」が親近感を持って、純粋にScienceとArtを楽しむことができるようになると期待しています。


Introduction

私たちが目指したのは、従来のものと異なる形態をとるBioArtだ。これまでに発表されてきたBioArtは、既に紙面や培地などの媒体に描きだされた「結果」を見る、触るなどの鑑賞のみを行う、受動的なものでしかなかった。それに対して、今回我々が提示するE.coli Penでは、鑑賞者みずからが筆をとり、絵を描き、色を塗ることが出来る。すなわち自由で能動的なBioArtである。

Results & Discussion

大腸菌の生存曲線について 

<背景>

E.coli-Pen製作にあたって、E.coli-PenのインクにH2O2反応系の大腸菌(DH5α)を用いました。

しかし、高濃度のH2O2は大腸菌に対して濃度依存的毒性を示すことが知られています。 そこで、効率的にH2O2反応系を利用するために、大腸菌(DH5α)の生存曲線を調べ、大腸菌(DH5α)が死滅しない程度のH2O2濃度を求めることにしました。


<実験方法>

1日目
・DH5αの培養
 プレートからシングルコロニーを滅菌した爪楊枝でピックアップしました。
 ↓爪楊枝でピックアップしたコロニーをテストチューブに入れた2mlのLB(amp-)液体培地に移し、37℃で振盪培養しました(overnight)。
2日目
前日にプレカルチャーした培養液2mlにLB液体培地 28mlを加えて希釈し、吸光度を計りました。
↓DH5αをO.D.600=0.4~0.6になるまで37℃で振盪培養しました。
↓培養後、培養液を2mlずつ分注し、終濃度が1mM,100μM,10μM,1μM,100nM,10nM,1nM, 
100pM,10pM,1pMになるようにH2O2を加え、37℃で振盪培養しました(1時間)。
↓1時間後、培養液1μlに対してLB液体培地を1ml加えて希釈し、希釈した培養液10μlをLBプレート(amp-)にまき、37℃で培養しました(overnight)。
3日目
プレートのコロニーの数を数え、生存曲線のグラフを作成しました。


<実験結果>

実験結果を以下に示します。


得られたグラフより、大腸菌のH2O2による致死濃度は1mMである事がわかりました。一方、H2O2濃度が0.000001mM(=1nM)以下だと大腸菌の生存に影響を与えないことがわかりました。以上の結果からH2O2濃度が1nM~1mMの範囲を基準として使用し、次にH2O2応答プロモーターの活性度合を調べることにしました。
また、この実験結果は実験を5回行って、その統計をもとにしているので実証性が十分にあるといえます。


<引用文献>

以下の引用文献を参考に、得られた結果は正しいと判断した。
図17Bは、大腸菌XL1-ブルーおよび0112a,c血清型の生存能力に対するH2O2の濃度依存的毒性を示す。


参考文献より、大腸菌のH2O2による致死濃度が1~0.9mMであること、ある一定のH2O2濃度を超えると急激に大腸菌の生存率が下がることがわかる。


桂川国際特許事務所「抗体または好中球を介するオゾン生成」
【出願番号】特願2004-551020(P2004-551020)
【出願日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【国際出願番号】PCT/EP2003/012710
【国際公開番号】WO2004/044582
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト
【出願人】(593052785)ザ スクリップス リサーチ インスティテュート
http://www.ekouhou.net/%E6%8A%97%E4%BD%93%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%81%AF%E5%A5%BD%E4%B8%AD%E7%90%83%E3%82%92%E4%BB%8B%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%AA%E3%82%BE%E3%83%B3%E7%94%9F%E6%88%90/disp-A,2006-506613.html


ahpC

<結果と考察>

ahpCプロモーター;ahpC-Fは酸化ストレス防御に関連する遺伝子です。これらの遺伝子の転写は過酸化水素応答によって制御されており、ahpCとahpFはアルキルヒドロペルオキシド還元酵素の小サブユニットと大サブユニットを、それぞれコードしています。そしてAhpCとAhpFは複合体を形成することで、アルキルヒドロペルオキシドを還元します。 ahpCプロモーターは酸化ストレス応答転写因子の1つであるOxyRによって支配されています。OxyRは恒性的に発現されるが、過酸化水素による酸化ストレス条件下において、初めて活性化されています。また活性型OxyRはahpCのプロモーター領域に結合し、転写を促進します。
私たちは、ahpCプロモーターによる蛍光タンパク質発現系を設計し、この発現系ベクターをDH5αコンピテントセルに形質転換しました。そして、以下に示すように、過酸化水素を付加した細胞の蛍光強度測定を行いました。
 37℃下において、細胞を1nM~1mMの過酸化水素で処理し、10分毎に80分までの蛍光強度を測定しました。LB培地は自家蛍光が生じるため、対数増殖期にある大腸菌をOD600=0.5に保ち、PBSに懸濁しました。
 Figure 1 はahpCプロモーターが過酸化水素に対して濃度依存的に応答し、また経時的にその活性が増大していることを示しています。特に過酸化水素濃度10μM~1mM、処理後40分から70分において蛍光強度は著しく増大しました。また、処理後70分以降、蛍光強度の増大傾向は見られなくなりました。
 今回、我々が得た結果は極めて理想的で、過酸化水素による濃度的、時間的な蛍光タンパク質の発現調節が可能であることを示唆しています。従って、我々はこの発現系により、極めて多くの色をつくり得ると考えられます。我々の発現システムはE.coli Penの開発にとって、間違いなく強力なツールとなります。


sufA

<結果>

 sufAプロモーター;sufAプロモーターはOxyRを含めた幾つかの転写因子によって支配されており、それらの転写因子は大腸菌においてFe-S cluster assemblyシステムをコードするsufABCDSEオペロンの転写を制御しています。私たちはsufAプロモーターに関しても、蛍光タンパク質発現系を設計し、蛍光強度の測定を行いました。
 Figure 2 はsufAプロモーターが過酸化水素に対して濃度依存的に応答していることを示しています。

<考察>

 sufAプロモーター領域はsufAオペロンの上流に位置し、SufAタンパク質は足場タンパク質として機能しています。SufAタンパク質は極めて短時間で発現量の最大値に達し、sufAプロモーターは少なくとも処理後、80分まではその活性を増大、維持しました。また我々は、sufAプロモーターの濃度依存的な活性はSufAタンパク質の発現量にも反映されるものと推測しています。

Materials & Methods

References